企画・製作総指揮のディック・ウルフが「ニューヨークポストの一面がドラマのバイブルだ」と語っているように、「ロー・アンド・オーダー」の各エピソードは“実在の事件”にインスパイアされている。日本人にわかりやすいところでいえば、ロス疑惑事件やジョンベネ殺害事件、マイケル・ムーアのドキュメンタリーにも扱われたコロンバイン高校銃乱射事件を題材にしたエピソードなどがあるが、深刻な社会問題をはらむ大事件から、著名人のゴシップ、身近な日常トラブルまで、事件の中身は多種多様。人種差別、同性婚、エイズ、幼児虐待、カルト宗教、尊厳死、さらには9.11テロやイラク戦争絡みの事件が扱われることもある。
さらにこのドラマは、新聞の見出しからはわからない事件の深層にも迫っていく。例えばアブグレイブ刑務所の捕虜虐待事件を題材にした「鮮血の十字架」(ニューシリーズ1第1話)は、イスラム教徒の女性がアメリカの女性兵士を殺害した“報復処刑”を巡る物語。表面的には明らかに有罪と思わせる事件だが、イラク戦争や捕虜収容所の惨たらしい内幕が裁判シーンで描かれ、被告が殺人に至った動機の複雑さがあぶり出されていく。実在のセンセーショナルな事件の裏側に潜む真実、すなわちニュースの核心を観る者に突きつける「ロー・アンド・オーダー」には、そんな社会派ドラマならではの“真のリアリズム”が脈々と息づいているのだ。